2.自首までの足どり――行きつく先は "毛思想 "


歯切れの悪い警察の態度

 山本保子。二十八歳。「速合赤軍」 "兵士 "。三月十日、愛知県・中村署に自首して逮捕(森林法違反)され、いまは殺人、死体遺棄、保護者遣棄などの罪も加わり、群馬県警で取り調べを受けています。夫順一(二八)のリンチ殺人に加わり、二月六日、生後ニカ月足らずのわが子を迦葉山アジトに置き去りにしたまま、いのちからがら逃げ出した保子は逮捕までの二十二日間、どこへかくまわれていたのか――。取り調べが始まって二週間以上になるのに多くのナゾに包まれています。

 いままで警察の発表などで明らかになっているのは――。「時計を落とした」と仲間をだまして雪の林道をかけおりた保子は、近くのスキー場からタクシーに乗り、沼田駅へ行き、近くの洋品店で買った衣服に着替えて六日夜、東京・上野駅へ。金は一万余円かくし持っていました。上野の旅館へ一泊した保子は七日早朝に東海道線で自分たちが住んでいた名古屋市へ向かい、その足で小牧市北外山二七三○、県営住宅、伊神邦彦(三六)のもとヘ。「夫婦げんかをし、こどもは実家へ置いて来た」と十四日までかくまわれていました。そして十日間の空白をおいて二十五日から三月十日、自首するまで名古屋市中村区ニッ橋三丁目、天理教布教師、五藤秀雄さん(六一)が友人から頼まれ、五藤さんの長女のとつぎ先の岐阜県揖斐郡池田町、料理店手伝い、宮沢吉明さん(四二)宅に身を寄せていました。この間、保子は「水野」と名乗り、「暴力団の極道のおやじから逃げている」と五藤さん、宮沢さんらをだまし続けていました。

 この間のことを群馬県警に聞くと「伊神?知りませんな。本人(保子)がいいたがらないのでね」というだけ。そういいながら「ナゾの十日間などわかっているが捜査中のことなので発表できない」ともいう歯切れの悪さ。愛知県警の平松警備課次長も「伊神のところへ一週間いたが、伊神と一緒だったのは二日だけ。伊神はそのあと大阪へ出張していた」といい、「伊神から事情を聞いたが、大阪のどこへ行ったかわからない。そのあと宮沢さんのところへ行くまでの十日間もわからない」といった調子。

 ところが、この伊神や山本夫婦がこれまで何をしてきたかを調べていくうちに、今回の事件のナゾを解く糸口になる、さまざまな疑問につき当たりました。まず伊神という男。中国育ち。四十年帰国。四十二年夏、名古屋市内の日中貿易の盲従商社「協和交易」ヘ就職。すでに同社に三十六年からつとめていた保子と親しくなりました。

"毛沢東盲従強要業 "に専念

一方、夫の順一は四十一年四月、北九州大中国語科を卒業と同時に名古屋市中区丸の内二の一三、日中貿易盲従商社「華潤」ヘ同社専務で反党盲従分子の徳井貞雄の紹介で入社。四十一年秋、名古屋市で開かれた中国経済貿易展で、伊神や保子と "毛沢東思想 "ですっかり意気投合し、盲従への道をまっしぐらにすすみました。四十二年、東京の善隣学生会館にあった日中友好協会本部へのなぐりこみ事件では、順一が先頭に立って暴力をふるったことは、すでに「赤旗」(三月十一日または十二日付)で報道したとおりです。

 順一や伊神らは、こうして仕事はそっちのけで、各貿易商社をまわって "毛沢東盲従強要業 "に専念。そのため伊神は、同じ盲従分子の協和交易社長村井瀞一とも意見が対立、けんかわかれをして、保子とともに、名古屋市東区富士塚町二の一一に、四十五年八月、「アイカ商事」の看板を出しました。元喫茶店の一部を改造したこの事務所は看板だけ。実際は中国民芸品をブローカーから仕入れて、伊神と保子が車で団地などを売り歩く "行商 "です。このころ保子と結婚した順一も、この行商を時どき手伝っていました。しかしこれがすべてかどうか。この三人が裏でなにをしていたかは、まださだかになっていません。

 「われわれ( "京浜安保 ")は毛沢東主義にのっとった一国革命。無原則な統一はできない」――昨年十一月、「連合赤軍」誕生のさいヒステリックに叫んだ永田洋子(二七)。

 「やるべきは武装ほう起だ。そのためにはこっち( "赤軍 ")が毛沢東主義に路線変更してもよい」と永田に同調した森恒夫(二七)。永田は留置先の高崎署で「四十年にML派が分裂したとき、毛沢東思想に関心をもち、傾倒した」と自供。兄が大阪で日中商社に勤めている森もアジトでつねに中国行きを熱望していたといいます。

北京放送に聞きいり

 横浜国大生の吉野雅邦(二三)は、学内で毛沢東語録売りに精を出していました。加藤三兄弟の二男倫教(一九)も四十六年夏、家をとびだす前に北京放送に聞きいり『毛沢東語録』、『ゲリラ戦教程』を持っているのを父親にみつかり、しかられています。

 このように「連合赤軍」一味を洗えば、きまって行きつく先は "毛沢東思想 "。逃走から自首までの一ヵ月余の足どりが不明なままの中村愛子(二二)についても同様です。

 だがこうした "毛沢東盲従 "にふれる部分は、警察も報道機関もなぜか口をつぐんでいます。この盲点をつくことが、事件の真相を解明する上で、いまいちばん重要といえましょう。


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